事業者の皆さんへ

消費者被害の防止の為に

 消費者機構日本は、消費者契約に関する調査、研究、事業者への不当行為の是正申入れ等を行っています。これら活動を通して得た知見から、事業者の方々に、よりよい消費者契約を締結していただくために、適宜情報提供させていただきます。

よりよい賃貸借契約の締結に向けて(1)原状回復条項作成時の注意事項

《事業者への要望》

 賃貸借契約書の原状回復条項は

自然損耗・通常損耗の費用は貸主負担。故意・過失による汚損・損耗の費用は借主負担。

 が原則となった内容に作成されることを要望します。

 アパート等の賃貸借契約は、消費者トラブルのなかでも相談が多い分野です。また、消費者契約法を使った裁判例が数多く出されている分野でもあります。
 そのような原状から、当機構でも賃貸借契約の専門の検討チームを設け、不当な約款等の是正活動を行っております。

 原状回復について、民法第483条は「賃借物件を退去する際には、借主は現状のまま貸主に返還すればよい」と定めています。
 その場合、過去の裁判例から「賃借物件に借主の故意・過失による汚損、破損があれば、その原状回復費用は借主が負担し、自然損耗や経年変化、通常損耗による汚損、破損であれば、貸主が費用を負担する」という考えが定着しています。

○借主負担
クーラーの故障による水濡れで汚れやカビが発生し、拡大してしまった場合のように、借主が注意を怠ったり修繕が必要なのに貸主に知らせなかったりしたために損害が大きくなったときの費用等。
○貸主負担
借主が居室に家具を置いたことによる床や畳、カーペットのへこみ、日焼けにより色落ちしたフローリングや畳、テレビや冷蔵庫等の後の電気焼け等。

 よって、賃貸借契約書に「自然損耗や経年変化、通常損耗の場合でも原状回復の費用は借主の負担となる」との条項があれば、消費者契約法第10条により不当条項となる可能性があります。

 当機構では、次の条項が不当条項に該当する可能性があるとして、検討した経過があります。

  • 自然損耗・経年経過の場合の原状回復費用の負担は、貸主・借主の折半とする。
  • 自然損耗・経年変化の原状回復費用は、貸主・借主が協議して負担割合を決める。
  • 損傷原因が貸主・借主のどちらにあるか不明確な場合、または困難な場合の玄関ドアの鍵の原状回復費用は借主の負担とする。
  • 冷蔵庫等の後ろ等の電気焼け、重量物の設置による床材等のへこみは、自然損耗・経年変化の場合であっても借主の負担とする。

 事業者の方々には、賃貸借契約書の原状回復条項を作成する際には、「自然損耗・通常損耗の費用は貸主負担。故意・過失による汚損・損耗の費用は借主負担」を踏まえた条項作り(または、契約条項の見直し)を要望するものです。

 詳細な原状回復の考え方については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」をご参考ください。