差止請求訴訟
【2026年1月27日:掲載】
山梨県に対する訴訟 一審勝訴判決のご報告
― 当機構が求めた違約金条項の差止請求が全面的に認められました ―
医学部卒業後に特定の地域で診療を行うことを条件とした「地域枠制度」は、全国の医学部で広く導入されています。多くの地域枠制度は、都道府県による修学資金貸与制度と一体的に運用され、卒業後に指定区域で一定期間勤務すれば奨学金の返還義務は免除されますが、そうでない場合には、これを返還しなければならない仕組みです。
しかし、山梨県の運用する地域枠制度は、指定区域・指定年限の従事ができなくなった場合、総額936万円の奨学金に10%の利息を付したうえで、さらに842万4200円もの高額な違約金を課すという、全国的にも極めて厳しい内容を特徴としていました。
当機構は、この高額な違約金条項が若年者の将来選択を不当に拘束し、消費者契約法に反するものであるとして、山梨県を被告として違約金条項の差止めを求める訴訟を提起しました。
そして2026年1月20日、甲府地方裁判所は、当機構の主張を全面的に認める画期的な判決を言い渡しました。
裁判所は、次のいずれの条項も消費者契約法9条1項1号および10条により無効であると判断し、山梨県に対してこれら条項の使用差止めを命じました。
- 地域枠受験時に提出を求められる誓約書の違約金条項
- 医師国家試験合格後、研修開始前に締結を求められる契約書の違約金条項
若年者の自己決定権を守る観点から、司法が明確な歯止めを示した極めて重要な判断であり、当機構として高く評価しています。
判決で示された主要な争点と判断
- ①地域枠医師の契約は「消費者契約」に当たるか
裁判所は、次の点を踏まえ、地域枠医師は消費者として契約を締結する立場にあると認定しました。
- 地域枠医師は今後9年間、県内医療機関と労働契約を締結する予定であること
- 修学資金受給時点では消費者であり、猶予・免除を受けるためにキャリア形成プログラム契約を締結する必要があること
- ②違約金条項は「消費者契約の解除に伴う」ものか(消費者契約法9条1項1号)
文言上は客観的事実を基準とするように見えますが、実際には地域枠医師が自ら勤務継続を断念し、他院での勤務を希望する場面で適用されることが多い点を重視し、実質的に契約解除を前提とした違約金条項であると判断しました。
- ③824万4000円という違約金額は「平均的損害」を超えるか
裁判所は、次の点をふまえ、違約金額の全体が平均的損害を超えており無効と判断しました。
- 県が主張する「750万円の負担根拠」が不明確であること
- 他自治体に同種の制度が存在しないこと
- 損害は修学資金の返還と利息(10%)で十分に補填されると考えられること
- ④消費者契約法10条(信義則違反)該当性
裁判所は、次の点を踏まえ、消費者の利益を一方的に害する条項であり無効と判断しました。
- 実質的に県に損害がないにもかかわらず高額な違約金を課すことは衡平を害するものといえ、一般的な法理の適用による場合に比して消費者の義務を加重していると認められる
- 違約金を支払わなければ転職が著しく困難となり、キャリア選択の自由を大きく制約する
- 契約書は県が一方的に提示するひな型で、交渉の余地がない
今後への期待と原告としての見解
今回の判決は、地域枠制度に高額な違約金を組み込むことで若年者に課されてきた過度な負担と不合理な拘束に対し、司法が明確に歯止めをかけた点で極めて大きな意義があります。当機構として、この判断を強く支持するとともに、今後の制度運用に向けて以下の点を訴えます。
- 第一に、大学受験という人生の入り口に立つ若年者に高額な違約金を誓約させることは、自己決定権を著しく損なう重大な問題です。6年以上先の将来を予測し、高額な違約金を含む契約に同意させることは、若者の将来選択を過度に拘束するものであり、到底許容されません。
- 第二に、医師の地域偏在という政策課題には、労働環境改善や女性医師のリスキリングなど多様な方策が存在します。その中で、経済的に弱い立場の若者に高額の違約金を課す契約を用いることは、最も不適切な方策と言え、法がその効力を認めるべきではありません。
- 第三に、キャリア形成プログラムは本来、医師のキャリア形成を支援する制度です。単なる労働力確保の契約ではない以上、研修医が進路を変更しても、それが直ちに「損害」になるはずがありません。もし本件のような違約金条項が全国に広がれば、制度は本来の理念から大きく逸脱してしまいます。
- さらに、離脱を希望した研修医が「犯罪者扱いを受けた」「希望する専門研修を受けられなかった」といった情報も寄せられています。人格的攻撃や専門医資格取得の妨害は、金銭以外でも深刻な不利益です。根本的な問題は医師不足と勤務医不足、そして過重労働の悪循環にあり、その解決を一受験生・一研修医に契約で押し付けることは許されません。
今回の判決を契機として、若者の将来を不当に縛らない制度設計へと転換が進み、医師が安心してキャリアを選択できる環境が整うことを強く期待します。
一審判決までの経緯
山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの違約金条項に対する差止請求訴訟の状況について | 差止請求訴訟 | [COJ]消費者機構日本
山梨県に対して、「山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの適用に係る契約書」の違約金条項を使用しないよう求める差止請求訴訟を起こしました。 | 差止請求訴訟 | [COJ]消費者機構日本
