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差止請求訴訟

山梨県に対して、「山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの適用に係る契約書」の違約金条項を使用しないよう求める差止請求訴訟を起こしました。

 地域間での医師の偏在解消等を目的として、医学部卒業後に特定の地域で診療を行うことを条件とした医学部選抜(地域枠制度)が全国各地で行われています。多くの場合、都道府県の修学資金貸与制度と一体的に運用され、卒業後に指定された区域で一定年限診療することで返還を免除される仕組みとなっています。

 こうした制度の中でも、特に山梨県については、指定区域・指定年限の従事ができなくなった(離脱)場合に8,424,000円もの高額な違約金を課す点に特徴があります。当該違約金条項は消費者契約法に照らして無効と考えられます。また、地域枠制度を利用して大学を受験する18歳ないし19歳の若年者に、少なくとも6年以上先の将来を予測させ、高額な違約金を含む契約を誓約させることでその将来を拘束することには、個々人の自己決定の観点から大きな問題があると考えています。

 当機構から山梨県に対し、当該違約金条項の問題点を指摘し、その是正を働きかけてきましたが、対応されないため、この度、甲府地方裁判所に差止請求訴訟を提起しました。

1. 提訴までの経緯

(1) 当機構に山梨県の「山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの適用に係る契約書」に関する情報提供が寄せられ、2023年2月21日付で山梨県に対し下記2点の是正を申入れました。

申入れ事項1;契約書第4条を削除すること

第4条 キャリア形成プログラムを満了する見込みがなくなったと認められる場合、その理由が生じた日の属する月の翌月末日までに違約金として8,424,000円を支払わなければならない。

申入れ事項2;契約書第1条第2項の第2文「なお書き」削除すること

第1条 2 前項の規定に関わらず、災害、疾病、その他やむを得ない理由により医師の業務に従事することができない期間(中断期間)がある場合には、当該期間を延長するものとする。
なお、結婚、介護、子育て(産休及び育休期間は除く)等はやむを得ない理由として考慮しない。

(2) 当機構の申入れに対し、2023年3月24日付け山梨県福祉保健部長名で概略次のような回答がありました。

<申入れ事項1(違約金条項)について>
  1. ①顧問弁護士に法令等に抵触しないことを確認したこと。
  2. ②学生等は本県制度について十分承知していること。
  3. ③地域枠制度および医師修学資金制度を活用し医師になれるという学生等のメリットは十分に大きく消費者の利益を一方的に害するものではないこと。
  4. ④本県の医師確保は地域枠制度及び医師修学資金制度に依るところが大きいこと。
<申入れ事項2(中断事由)について>
  1. ⑤指摘を受けて記載方法について修正を検討すること。

(3) 山梨県からの回答について、当機構の意見と質問を2023年5月18日付けで送付し、6月19日までに回答いただけるように要請しました。

<申入れ事項1(違約金条項)について>
  1. ①顧問弁護士の見解は専門家の見解とはいえ公定力はないこと。
  2. ②消費者契約法では契約当事者の認識の有無にかかわらず契約条項に客観的違法性があれば無効であること。
  3. ③資金提供という意味で学生にメリットがあるものの、国家試験に合格するのは学生自身の努力の成果であること。そして、資金提供のメリットについても他の奨学金との比較で考えることも必要であること。さらには、消費者契約法第9条第1号における事業者の損失は当該契約が解約された場合の具体的な損失、契約締結費用等が対象であること。
  4. ④他県でも地域枠等医師キャリア形成プログラムは導入されているところ、山梨県のみが違約金を設けている点(当機構申入書5ページ18行目)について回答では一切言及がないこと。
<申入れ事項2(中断事由)について>
  1. ⑤具体的な修正内容と時期をお知らせいただきたいこと。

(4) その後、山梨県から回答期限を6月30日までとするよう求めるメール連絡があり、当機構は了承しました。しかし、再設定したその期限を過ぎても回答がなされませんでした。そこで、10月30日、消費者契約法第41条に基づく事前請求を行いました。事前請求から1週間後、回答期限を更に2ヶ月延長するよう求める要請がなされましたが、当機構としては従前の経過等を踏まえ、山梨県には請求内容に対する誠実な対応を期待できないと判断し、やむを得ず甲府地方裁判所に差止請求訴訟を提起しました。

2. 資料