消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

申入れ・要請等

住友不動産株式会社(建築請負事業者)と協議の結果、工事請負約款の一部(契約解除時の違約金条項等)が改善されました。

 消費者機構日本は消費者からの情報提供を受け、住友不動産株式会社(東京都新宿区)に対して、当該事業者が使用する工事請負契約書(以下本件契約書という)及び工事請負契約約款(以下本件約款という)について、「申入れ、要請及び問合せ」を行いました。

 当該事業者から、同年11月10日付で第1回目の回答を受領し、その後、面談や文書による意見交換を重ねてまいりました。その結果、当機構の「申入れ・要請・問合せ」の趣旨に従い、概ね本件約款が改善されることになりましたので、協議を終了しました。なお、当機構からの要請に対応していただけなかった事項等につきましては、今後の被害情報を注視し、必要に応じて検討していくこととします。

 当機構の「申入れ、要請及び問合せ」内容と当該事業者の回答は以下の通りです。

 なお本件につきましては、合意書を締結して協議を終了しました。

  消費者機構日本の申入れ等の内容 住友不動産の回答
申入れ事項① 契約締結後から工事着手に至るまでに契約を解除した場合、既に発生した費用の他に、工事請負契約代金の5%相当額を違約金として発注者が負担する旨定めている。既に発生した費用の他に違約金を定める部分は、平均的な損害の額を超えており、消費者契約法第9条第1号に該当する不当条項である。 「の他違約金として工事請負契約代金の5%相当額」を削除し、変更として「の他乙が被った損害」を追加する。
【本件約款第28条第3項】
甲が本契約締結後工事着手に至るまでの間に、本契約を甲の理由により解除するときは、それまでに乙が要した費用の他違約金として工事請負契約代金の5%相当額を甲が負担するものとする。
【本件約款第28条第3項】
甲が本契約締結後工事着手に至るまでの間に、本契約を甲の理由により解除するときは、それまでに乙が要した費用の他乙が被った損害を甲が負担するものとする。
要請事項② 不可抗力による損害が発生した場合、注文者が、何ら帰責事由がないのに、請負代金以外の損害を負担するものとしている点で、明文の任意規定や一般法理などに比して、消費者の義務を加重している条項である。
【本件約款第16条第2項】
前項の損害で重大なものについて乙が善良なる管理者の注意をもって管理したと認められるときは、その損害額を甲・乙協議して定め、甲が負担するものとする。
損害の中で「重大」なもので、当社が「善良なる管理者の注意をもって管理したと認められるとき」に限り、発注者と当社で「協議」した上で相当と認められた金額を発注者の負担としているに過ぎない。よって、一般法理等に反するとはいえないと考えている。「協議」を調わせようとするのが大前提であり、万が一発注者との間で「協議」が調わない時は、公平の観点から、公的な第三者に入ってもらい、負担割合について判断を仰ぐことになる。その時の損害の根拠は、一般法理に従うことになると考える。
<回答を受けて>
当機構は、当該事業者からの回答を踏まえても、本条項により、消費者の義務が加重される可能性はありますが、本条項による具体的な被害情報を確認していないこともあり、このまま推移を見守ることとし、被害情報が寄せられるようであれば、あらためて要請を検討することにいたしました。
 
要請事項③ 本件約款第20条に定める保証書を提供してほしい。 保証書を提出する。
<保証書受領後>
「対応していただけなかった事項」①を参照。
要請事項④ 本件約款第20条第2項に記載の「隠れた瑕疵」から「隠れた」を削除すること。 ※住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任の特例)は、同法第95条(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の特例)と異なり、瑕疵担保責任の瑕疵を「隠れた」瑕疵に限定していないため。 本件約款第20条2項から「隠れた」を削除する。
【本件契約約款第20条第2項】
乙は、前項の瑕疵担保責任のうち、構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」第94条により政令で定める部分。)の隠れた瑕疵(構造耐力または雨水の浸入に影響のないものを除く。)についての瑕疵担保責任の履行に関する措置として
~以下略
【本件契約約款第20条第2項】
乙は、前項の瑕疵担保責任のうち、構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」第94条により政令で定める部分。)の瑕疵(構造耐力または雨水の浸入に影響のないものを除く。)についての瑕疵担保責任の履行に関する措置として
~以下略
要請事項⑤ 本件契約書の柱書記載の建築士法第22条3及び第24条の8に係る書面を提供してほしい。 書面を提供する。
<書面受領後>
→報酬の額及び支払いの時期は、契約書の通りとあるが、設計料および工事監理料はどのように記載しているのか。
→契約書に設計料および支払時期を記載する箇所がある。工事監理料は、監理はするが別途、お金をいただいていない。「建築士法第22条3及び第24条の8に係る書面」における「5.報酬の額及び支払いの時期」の箇所に「なお、工事監理料は請負代金に含まれます。」と記載する。
問合せ事項⑥ 本件約款第6条第2項は、施工にあたり、工事現場の状態及び近隣地との関係、地盤等に予測できない状態が発生して設計変更が必要となった場合、これにより増加する工事請負代金は注文者が負担する旨を定めているが、「予測できない状態」とは、具体的にどのような状態を想定しているのか。 「予測できない状態」とは、具体的には、地中障害物が発見されてその除去工事が必要になったとき、近隣地居住者からの要望で建築計画に変更が生じたとき、地盤調査により地盤改良工事が必要となったとき等である。
<回答を受けて、再問合せ>
「地盤調査により地盤改良工事が必要になったとき」というのは、工事請負契約締結段階では、地盤調査は行っていないとの趣旨か。
地盤調査は、工事請負契約を締結後に実施する。契約締結前は近隣のボーリング調査の結果等を参考に地盤改良等を判断して見積もりを作成する。
地盤調査の結果、基礎工事等の代金が増加し、資金計画が成り立たない時は、減築や仕様の見直し、あるいは契約解除もありえる。
<再回答を受けて>
当機構は、当該事業者からの回答を踏まえて、消費者に、契約時には想定し得なかったような高額の地盤対策費用等が必要となるような場合には、事業者との協議による柔軟な解決が検討されるとの回答があったこと、また、本条項による具体的な被害情報を確認していないことから、このまま推移を見守ることとし、被害情報が寄せられるようであれば、あらためて要請を検討することにいたしました。
問合せ事項⑦ 本件約款第12条第1項に記載の「第7条」とは「第7条2項」のことか。「第15条」とは「第15条3項」のことか。第32条所定の事由により工事を完成することができない旨の判断とは、具体的にどのような状態を想定されているのか。 本件約款12条の1項の「第7条」は「第7条2項」、「第15条」と「第15条3項」である。条文を明確にする為、項数まで明記することは承知したが、現在の約款の在庫がなくなり次第の対応をさせてほしい。

第32条の所定の理由は「境界トラブル」「埋蔵文化財が出てきた」「防空壕が出てきた」「借地の承諾の契約が地主の意思に基づいていなかった場合」等である。工事を続行する為の前提条件が、外部要因でくずれた場合は、当社のペナルティがなく工事の延長ができるといった趣旨である。

【本件約款第12条第1項】
第7条・第10条・第14条・第15条・第16条・第32条所定の理由により工事期間内に工事を完成することができないと判断されたときは、乙は遅滞なく甲に通知し、その理由を付して工事期間の延長を求めることができる。なおこの延長日数については第27条所定の遅延損害金の対象期間外とする。
<回答を受けて>
「当社の責めに帰す場合は除く」との表現の追加をお願いしたが受け入れられず協議終了とした。
「対応していただけなかった事項」②を参照。
問合せ事項⑧ 本件約款第27条1項は、請負人の故意または過失によって履行遅滞となったときは、発注者は、遅滞1日について、工事請負契約代金から工事の出来高部分に対する工事請負契約代金相当額を控除した額の2500分の1の違約金を請負人に対して請求できると定めているが、発注者が違約金を超える損害を受けた時は、同損害の賠償請求を排訴する趣旨ではないとの理解でよいか。 工事を遅らせた責任が当社にある場合で、規定の金額を上回る損害があれば、協議に応じることになる。
問合せ事項⑨ 本件約款34条は、本契約について紛争が生じたときは、東京地方裁判所を管轄裁判所とすることを定めているが、この管轄合意は、専属的合意ではなく、付加的合意であり、法定管轄を排訴する趣旨ではないとの理解でよいか。 付加的合意であり、法的管轄を排訴する趣旨ではない。
【対応していただけなかった事項】
消費者機構日本の要請内容 住友不動産の回答
『対応していただけなかった事項』①
(要請事項③)
 
保証書について、品確法上の瑕疵担保責任を負うことがわかる表記にしてほしい。

<趣旨>
注文者が住宅を譲渡した場合でも、品確法上の瑕疵担保責任は、請負者が負う。保証書の内容では、保証条件第8条の手続きをしなければ、保証の対象から外れるように読み取れる為、住宅を譲渡した場合でも、品確法上の瑕疵担保責任は、請負者が負うことがわかるように保証書に記載してほしい。

瑕疵担保責任(品確法上のものも含む)は、当社が注文者であるお客様に対して負う契約責任であり、住宅を譲渡した場合に、当社の瑕疵担保責任が当然にお客様から譲受人に承継されるものとは考えていない。この点は、品確法の法案作成段階で検討された結果、住宅の所有権移転に伴い瑕疵担保責任が当然に承継される旨の規定は設定されず、民法の原則通りとされたところと理解している。
なお、この場合であっても、保証書第8条第2項に定める手続きを経ることにより、個別に保証の継続等の対応をしている。したがって現状の記載のままとしたい。
【保証書 第8条2項】
注文者が当該建物を譲受人(相続等による包括承継を除く。)に譲渡する場合は、保証は原則として終了するものとする。但し、注文者が当該建物に対する保証の継続を希望する場合、譲受人が当該建物の使用を開始する前に、注文者があらかじめ書面にて請負者に通知し、かつ請負者がそれを書面にて認めた場合に限り、書面を交付した名宛人に対して、1回のみ、本保証書に準じて保証を継続いたします。
<回答を受けて>
当機構は、当該建物を譲渡した場合でも、注文者に対する請負者の瑕疵担保責任は残ると考えていますが、当該事業者からの回答は、注文者が建物を譲渡した場合は、譲受人に請負者の瑕疵担保責任が当然に承継されるとは考えていないとの回答であり、当機構の質問内容と当該事業者の回答に齟齬が生じています。しかし、このことによる苦情を当機構が確認していないこともあり、このまま推移を見守ることとし、被害情報が寄せられるようであれば、あらためて要請を検討することにいたしました。
『対応していただけなかった事項』②
(問合せ事項⑦)
 
本件約款第12条に関して、「当社の責めに帰す場合は除く」などの表記を追加してほしい。
<趣旨>
第12条は、工事を続行する為の前提条件が、外部要因でくずれた場合には、請負者のペナルティーなく工事の延長ができるといった趣旨であることを確認した。しかし例えば第32条第2項(1)だと「本契約の目的物の完成に重大な影響をおよぼす恐れのある隠れた事実が発見されたまたは発生したとき」とあるが、このことが請負者の責めに帰す場合もありえるので、「当社の責めに帰す場合は除く」と記載してほしい。
当社の故意または過失による工事延長の場合、本件約款第27条に基づいてお客様と協議の上、スケジュールを決めている為、本件約款第12条については、現状のままとしたい。
なお、第32条第2項(1)については「隠れた」という要件からも明らかなとおり、当社の故意または過失がある場合を前提としていない。同条項のその他の各号についても同様に当社に故意または過失がある場合を想定しておらず、外部要因を想定している。
【本件約款第12条第1項】
第7条・第10条・第14条・第15条・第16条・第32条所定の事由により工事期間内に工事を完成することができないと判断された時は、乙は遅滞なく甲に通知し、その理由を付して工事期間内の延長をもとめることができる。なおこの延長日数については第27条所定の遅延損害金の対象期間外とする。
<回答を受けて>
当機構の要請は、受け入れていただけませんでしたが、あくまでも当該事業者に責めがない場合を想定した条項であることを確認した為、実質的には、被害が発生しないものと考えます。その為、推移を見守ることとし、被害情報が寄せられるようであれば、あらためて要請の検討をすることにいたします。