消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

差止請求訴訟

山梨県医師地域枠違約金条項への差止裁判の判決確定にあたって

医学部卒業後に特定の地域で一定期間の診療を行うことを条件とする「地域枠制度」は全国の医学部で広く導入されています。しかし、中途離脱した場合に奨学金(936万円)に10%の利息を付し、さらに842万4200円もの違約金を加えて即時一括支払いを課す制度は、山梨県にのみ見られる過酷な契約です。

甲府地方裁判所は2026年1月20日、この違約金条項を違法とする当機構の主張を全面的に認め、差し止める判決を言い渡しました。これに対し山梨県側は東京高等裁判所に控訴していましたが、7月7日、山梨県が控訴を取り下げたことにより終結し、甲府地方裁判所での第1審判決が確定しました。

先ずは、山梨県が判決を受け入れ、当機構が問題とした違約金条項を廃止したことについては歓迎したいと思います。あわせて、この裁判が契機となり、今後、地域医療を担う若い医師に過度な負担を生じさせない制度へと更に見直しが進んでいくことを期待します。

1. 過大な経済的圧力は違法

甲府地裁判決は、地域枠医師制度における違約金条項が、過大な経済的圧力を用いて医師の職業選択の自由や移動の自由を不当に制約し、特定の勤務を強制する構造にあることを指摘し、消費者契約法に基づき無効と判断しました。この判断は、奨学金制度は本来「教育支援」であり、若い医師が自らのキャリアを主体的に選択できることを保障するべきという原点を改めて確認した判断と言えます。

2. 制度改定の方向性は判決の考え方に反する

判決を受けた制度の見直しとして、未だ詳細は明らかではありませんが、裁判で違法とされた違約金条項を廃止する代わりに「奨学金貸付時点から利息を発生させる方式」「貸与額の引き上げ」といった内容が報道されています。利息がつく期間を大幅に延長することにより、巨額の負債が若い医師に課される構造が残るとしたら、判決が示した過大な経済的圧力を用いて特定の勤務を強制してはならないという考え方に照らし、なお重大な問題を含むものと考えます。

また、県内出身者の枠を縮小する方向性も示されています。県外学生の比率を高めることが地域への定着可能性を低下させ、県外流出リスクを補うためにますます経済的拘束の強い制度設計へと傾いていく懸念もあります。

3. 人材育成に軸足をおいた制度を期待する

地域枠制度は本来、地域医療を担う人材を育成し、地域に根ざした医師を確保するための制度の筈です。地域医療を支える医師の確保は重要ですが、しかしそのために、若い医師の人生設計やキャリア選択の自由が不当に制約される制度であってはなりません。本裁判の判決を契機とし、地域枠制度が若い医師の未来と地域医療の持続可能性の双方を支える仕組みへと進化することを期待します。

2026年8月26日
消費者機構日本 理事会